キンケツショウと歯科治療 その1
今回お話しようと考えているのは、給料日近くになって寄り道せずまっすぐに帰宅する財布の状態ではありません。「菌血症」と書いて体の中をめぐる血液中の細菌がある状態をいいます。体の中(体内)は健康な人では、細菌がいない(無菌)状態になっています。
ここでおかしいと思った方はいらっしゃいませんか。口の中には細菌がいっぱいいるし、ヨーグルトを食べて腸内細菌を整えるという話を耳にします。実は口の中や胃や腸などの消化管の中は医学的に体の外なのです。食事を摂ると体にとって必要な水分や栄養分が、腸の粘膜を介して、無菌的に体内に取り込まれるというわけです。
さて話をそろそろ本筋に戻して、歯科治療を行うと菌血症を起こすことがあります。
観血的処置といって、歯を抜く、深い部分の歯石を取る、汚れている根の治療をする、歯周病の手術をする、など口の中に出血を起こすような処置では、口の中にいる細菌がその際、出血部から逆に血管の中に入り込み菌血症になることがあります。
以前私は大学病院で、患者さんの了解を得て抜歯を行った患者さんから採血をさせてもらって、菌血症の起こる割合を調べたことがあります。その結果は、なんと69%に菌血症が起こっていました。傷が大きく長時間かかる埋まっている親知らずを抜いた後よりも、簡単に抜けてもその周囲に歯周病などの病巣が大きく存在する歯を抜いたほうが、菌血症を起こしやすいという結果でした。抜く歯の周りに細菌がたくさんいたほうが抜くときに血管の中に細菌が入る率が高いというのは当然の理屈でしょう。さてここまで読んで頂いて菌血症はその後どうなってしまうのかと心配なさっている方も多いと思います。しかし、健康な人であれば、御自分の免疫力によって数分から数十分で菌血症は改善されます。つまり1時間もたたないうちに、血液中の白血球が侵入者をやっつけてくれるわけです。
けれども運が悪い人の場合には、菌血症が発端で重い感染症になってしまうこともあります。それについては次回にまたお話します。