歯ぎしり
歯ぎしりでよく家族にうるさいといわれる友人がいます。
彼曰く「記憶にないのはもちろんのこと、昼間どんなにがんばってもこのような音は出せない。」というのです。
夜意識のない状態では、想像を超えた力を出しているものなのです。この異常な力が加わることによっていろいろな障害が起こります。
次に歯周病を起こしたり、すでにある歯周病を悪くしたりします。
歯周病は、歯の周りの汚れが原因で歯を支えている組織(歯周組織)が炎症を起こし、しいては歯の周りの骨を溶かし、歯をぐらつかせたり、歯肉が膿をもって腫れる病気です。しかし、歯に大きな力が加わると、それだけで歯周病になったり、元々歯周病がある歯が急に悪化したりします。
もうひとつは、顎関節に障害をきたすことがあります。放っておくと、口を開けるたびに顎関節に音がしたり、顎関節が痛くて口が開くことができなくなったりする顎関節症に発展する場合があります。
朝起きたときにどうも歯がうまくかみ合わない、歯が浮いた感じがする、口が開きにくい、顎がだるいなどの症状がありましたら、寝ている間の歯ぎしりが考えられます。また、家族の方から歯ぎしりをしていないといわれても安心はできません。
それは、音がしなくて歯をくいしばるだけでも、歯周組織や顎関節は痛めつけられるからです。
私たち歯科医は、歯ぎしりやくいしばりなど歯に異常な力がかかる運動のことを総称して「ブラキシズム」と呼んで警戒しています。
ブラキシズムは寝ている間だけではなく、スポーツや肉体労働などによっても起こります。一生懸命物事にあたる時の形容として「歯を食いしばって~」という言葉を使いますが、これは歯の為にはよくないのです。
さて、夜間のブラキシズムはどうして起こるのでしょうか。
一番の原因は、精神的なストレスと言われています。そのほかの誘因としては、タバコ、カフェイン、アルコール、ある種の抗鬱剤等が関与しているという報告があります。現代人にストレスを感じないで生活している方は少ないかと思いますが、より強いストレスがブラキシズムを起すといわれています。
では、ブラキシズムを防ぐにはどうすればよいでしょうか。
昼間はできる限りくいしばらないという意識を持てば、ある程度解決できるでしょう。夜間は、寝る前近くのタバコ、カフェイン、アルコール、興奮をするような活動を避け、穏やかで快適な睡眠環境を整えた上で、「歯を合わせないで寝る」という自己暗示をかけるとよいと専門書などには書かれていますが、その効果は少し疑問だと私は考えています。
朝起きたときに先ほどお話したブラキシズムをしていると思われる症状がある方は、歯科医を訪ねてみて下さい。私たちは、ブラキシズムが強い患者さんには、マウスピースをお作りしています。
ストレスを減らしたり、リラックスして入眠することも大切ですが、それだけでブラキシズムを防げないとすると、ブラキシズムをしても歯や顎に悪影響を及ぼさない装置としてマウスピースは大変有効です。
昼間どうしてもくいしばらなければならない仕事の人も、その時だけマウスピースをつければ、障害は避けられます。 ダイエーホークスの王貞治監督は、現役時代にブラキシズムで、歯はボロボロだったそうです。あの時代にマウスピースをしてプレーをしていたら、と、ふと考えてしまいます。