味覚障害
味覚には苦味、甘味、塩味、酸味にうま味を加えた5つの味がありますが、それぞれの味を感じるセンサーが存在することがわかってきました。その仕組みは複雑で、少しのバランスの崩れから味がわからなくなる味覚障害が発症します。せっかく美味しい物を食べても味がわからないのはつらいことです。味覚障害の患者さんはこの10年間で10万人増え、現在全国で24万人もいるそうです。原因として最も多いのは亜鉛不足です。亜鉛は、体内の必須微量元素(微量だが体内で生成できない物質で、外から摂取しないと体に異常をきたす物質のことを言います)で鉄についで含有量が多く、60kgの成人で2.3g含まれています。
たった2.3gですが、舌の味蕾細胞(味を感じるセンサー)の新陳代謝を高め、感受性を維持すると考えられています。以前、口の中の大きな手術後などに食事が口からできない患者さんに、心臓の近くの中心静脈にカテーテルを入れて高濃度の栄養素を入れて、全く食事をしなくても必要な栄養を摂取できる治療法が行われていました。
しかし、その当時は必須微量元素の存在がわかっていなかったので、味覚障害などの微量元素不足によるさまざまな障害が出ました。今では、中心静脈栄養剤には必ず必須微量元素が配合されていますのでそのようなことはなくなっています。最近亜鉛不足による味覚異常が増加した原因には、ファーストフードやインスタント食品の横行だといわれています。
ちなみに亜鉛が多く含まれている食品は、かき、牛肉、レバー、うなぎ、ナッツ類、抹茶があげられます。これらの食品を含めバランスのよい食事を取ることが味覚異常の予防には大切です。 味覚異常の患者さんが来院されますと、私達がまず行うことは、血液検査をして、亜鉛濃度を測定します。数値が低い患者さんには、薬を処方します。
味覚異常を感じてからできるだけ早く薬を開始するほうが薬の有効率が上がりますので、早めの受診をお勧めします。味覚障害の初期では、濃い味を求めるようになったり、甘さを苦く感じたりします。しかし味覚異常を感じてご自分の判断で亜鉛のサプリメントを内服するのはお勧めしません。それは、次に述べる亜鉛不足以外の原因で味覚異常が起きている場合には、亜鉛の摂り過ぎで健康障害を起こす可能性があるからです。
他の味覚異常の原因としては薬があります。利尿剤や肝臓の薬、ある種の抗菌薬や抗精神薬、ビタミンDも原因として報告があります。
その原因はこれらの薬が亜鉛の体内への取り込みを妨げるためといわれています。また味を感じるセンサー問題なくてもその情報を伝える神経に病気が潜んでいる場合にも症状が起こります。 私たちは、亜鉛不足の検査ばかりでなく、患者さんのお薬の使用状況や、神経の状態もよく診察し最適な治療法を選択していきます。